「遊びの歴史学」第1部 講義メモ
00:05:42 第1部開始
00:06:55 植田さんからの池上先生の紹介
「ご紹介するまでもない、と思いますが…」(植田)
中世ヨーロッパ史が専門の歴史学者
2021年まで東京大学、現在退官し名誉教授
さまざまな切り口から中世ヨーロッパを中心に歴史を浮かび上がらせる一般書
池上俊一『パスタでたどるイタリア史 (岩波ジュニア新書)』
池上俊一『増補 魔女と聖女: 中近世ヨーロッパの光と影 (ちくま学芸文庫)』
池上俊一『動物裁判 (講談社現代新書)』
重厚な専門書も多数
池上俊一『ヨーロッパ中世の想像界』
池上俊一『ロマネスク世界論』
池上俊一『遊びの中世史』
遊びをテーマにゲンロンセミナーをやるなら、池上先生を呼ぶしかない(植田)
近著に池上俊一『歴史学の作法』があるので、遊びの歴史だけでなく、「歴史学の遊び方」もパフォーマティブに示していただく予定(植田)
資料がたくさん
69枚に及ぶパワポ
レジュメ
スライドに登場する図版のリンク集(植田さん制作)
※配信購入ですべてダウンロードできます
歴史との付き合いかたをうかがいたい(植田)
00:10:13 池上先生の講義開始
「ヨーロッパ中世というのはしばしば非常に誤解されていると思うので、見直すきっかけになれば」(池上)
00:11:17 歴史の中の遊び
マルセル・グリオール「革命はカテドラルを破壊できるが、子どもたちがビー玉遊びをするのを妨げることはできない」
人間(動物)にとって普遍的
絶えず移り変わっている
遊びには歴史がある
ホイジンガ『ホモ・ルーデンス (中公文庫 1973)』
遊びはあらゆる文化の基礎をなしている(文化は遊びだった)
ロジェ カイヨワ『遊びと人間』
遊びはむしろ文化の構成要素である
遊びの4分類:アレア(偶然の遊び、賭け事)、アゴーン(競争の遊び)、ミミクリ(模倣の遊び)、イリンクス(めまいの遊び)
「めまいの遊び」というのはどういうもの?(植田)
メリーゴーランドやスキーなど、スリルを感じる遊び(池上)
原始古代のメソポタミア、エジプトでもはっきりと遊びがあったことが遺跡からわかる
宗教活動と密接に結びついていた、生活の必要と混交していた
ギリシャ
体操、スポーツが健康法として社会的に推奨される
詩歌、音楽の遊び
労働の価値よりも閑暇(ヒマ)を重んじる思想
労働は奴隷や外人がやるもの、自由な市民は遊びをすべき
ローマ
集団的遊戯
世俗化
00:20:15 スライド1:戦車競走
この壁画はシチリア島?(植田)
ピアッツァアルメリーナのモザイクだと思います(池上)
「中世というのはキリスト教会の締めつけが厳しくて遊びが許されない暗い時代だ」 と思われているが、そうではなく、遊びに関してもオリジナリティが高く、その後ヨーロッパ、世界に広がっていく遊びが生み出された時代(池上)
遊びや運動は貴族の特権ではあった
ルネサンス期
運動競技は軍事や武芸と結びついていたが、ルネサンスにはそこから離れていく
古代の復興として、ギリシャの体操など教育的な価値のある遊びが教育書に記述された
盤上ゲームやトランプの技法集、ルールブックも出版された
宗教改革が推進され、遊びへの規制や監視が強まった
絶対王政期
宮廷の中で発達、エチケットに則った遊び
カフェ、クラブの付き合いでの遊びが広まる
オペラ、コメディ、仮面舞踏会、言葉遊び、謎掛け
イギリスの18-19世紀
近代的なスポーツが発達 、観衆も楽しむ
国民国家形成のための体育による心身鍛錬
プロスポーツ選手が遊びから離れていく
工業文明発達により、機械作業者の人格の疎外を癒やすための道楽、遊びが発達
「ここからは中世がいかに遊びに満ちていた時代であるか、遊びについて中世を抜きに何も考えられない、という話をしていきたい」(池上)
そもそも「中世」という言葉自体が暗くスキップできる歴史感があるが、そうではなく…(植田)
ヨーロッパや近現代の文明の源がヨーロッパ中世じゃないかなと思う。遊びについてもそう言える(池上)
00:27:42 「祭り」だらけの中世
もともと祭りは自然のリズムや農作業の儀礼をもとにしていた
都市社会の価値体系、ヒエラルキーを可視化する意味もあった
日常を破るような楽しい機会
大きなお祭りは1年に30〜40日ほどあり、1年の1/4、1/5がお祭りだったと計算されることがある
そんなに祭りで遊んでいて大丈夫?(植田)
「まあ…大丈夫なんでしょうね…」(池上)
カーニバル(謝肉祭)
大笑いし、身分が逆転し、飲み食いを思う存分する
ギリシャのディオニソス祭、ローマのサートゥルナーリア祭などの豊穣祈願の祭りが元
中世になるとキリスト教の暦に組み込まれる
四旬節(復活祭の前の40日)直前の1週間に行われるのがカーニバル
異教的
00:31:36 スライド2:カーニヴァル(カッセル)
19世紀なかば、カッセル(ドイツ)のカーニバル
ハリボテの巨大な人形
00:32:13 Olivecrona「一人、背、デカすぎだろ……」
巨人のハリボテはローマ的でキリスト教的ではないですね(植田)
00:33:04 スライド3:聖嬰児祭(少年司教)
聖嬰児祭
クリスマス週間の祭
キリストが生まれると知ったヘロデが2歳以下の男児を全て殺害させた
幼児虐殺 - Wikipedia
12月28日に殺害された幼児を殉教者として記念する
12月6日 聖ニコラウス(サンタクロースの起源)祭
子供が大人の役割をして、大人が子供の役割をする
00:35:11 スライド4:愚者祭、18 世紀半ば
ニーム(南フランス)で行われた愚者祭を描いたもの
愚者祭
クリスマスと1/6の間に行われる
香を焚くかわりに古い皮を燃やして悪臭を漂わせたり
聖職者が女装して淫らな歌を歌ったり
祭壇でサイコロ遊びをしたり
教会はけしからんとは思っていた?(植田)
けしからんと思ってもなかなか止められなかった(池上)
00:36:17 スライド5:シャリヴァリ『フォーヴェル物語』より
お祭りではなく、価値観を転倒する習慣
中世末〜近代 共同体の規範違反者に対する制裁
妻を亡くした老人が若い娘と再婚するなど
若者の集団が仮装して押しかけ騒く、馬に逆さに乗せて引き回す、水につけるなど
普段カチッとした社会だったから非日常的な場所が必要だったということ?(植田)
若者たちの不満をガス抜きという面が大きかった(池上)
00:38:25 スライド6:盲人戦
闘牛
ローマ、フィレンチェなどで
目隠し戦、盲人戦
フランス
盲人同士が武装してお互いに戦う
盲人が豚を撲殺すると豚を手に入れられる
00:39:44 造形芸術の中の「遊びの精神」
柱頭彫刻の動物、怪物、化け物、アクロバティックな人間の姿
00:43:03 スライド13:ミゼリコルド(貨幣を脱糞する男)
7つの大罪のうちの「貪欲」を表しているとも言われる
聖職者が金を取っていると言わんばかりの造形が教会の一番えらい人の席の下にあると…(植田)
ある一つの教会にだけあるのではなく、いろんな教会にある(植田)
étreintes | Erotisme dans la sculpture romane du 12ème siècle | Jean-Marie SICARD
フランス人の写真家のサイトで、各地の教会のこの手の写真がたくさん掲載されている(植田)
00:45:29 Okakyo「おお、このリンクは面白い」
00:44:38 スライド16:怪物のミニアチュール(カタツムリと騎士)
彩色写本の欄外装飾、イニシャルの装飾
カタツムリと戦う騎士
人気のモチーフであちこちの写本に描かれている
カタツムリは臆病の象徴といわれて、騎士道を風刺している説がある
神聖な教会や写本にどうしてこうしたモチーフが使われるのか?
「絵画や彫刻は文字の読めない人の聖書だ」と大教皇グレゴリウスが言っているが、罰当たりなモチーフはそうとも言えない
制作者が気晴らしでやっているにしては数が多い
遊びの精神が隙間に表れているのでは?(池上)
00:49:02 Okakyo「遊びの精神が満ちていた証拠ではないか、と」
00:48:21 都市文学と笑い
12-13Cにラテン語の文学世界から世俗語(フランス語・英語・ドイツ語)の都市文学が現れる
重要なものに笑いの文学があった
ファブリオ、ヌヴェル(ノヴェッラ) 、デカメロン、ファルス、パロディー、コント…
笑いの専門家(ジョングルール)
祭りの広場でパフォーマンス(演奏、朗唱、軽業)をする
道化
宮廷貴族に雇われる
王様をばかにすることができる唯一の人間
祭りが1年に1/4あり、宮廷にも道化が雇われているというのは、現代よりはるかに遊びに満ち溢れている時代ですね(植田)
中世人は表向き真面目で公式な生を送っていた反面、カーニバル的なふざけた遊び笑いも常に裏側に持っており、まるで2つの世界観・人生観を生きていたと思われる(池上)
中世ヨーロッパは遊びの精神をうまく利用した時代(池上)
聖と俗、真面目と不真面目を自由自在に行き来する道が開かれていた
00:54:40 子どもの遊び
00:54:56 スライド22:ブリューゲル「子供の遊戯」
1560年
この中に何種類の遊びがあるか?
森洋子『ブリューゲルの「子供の遊戯」』 によると、91種類
00:56:59 スライド24:羊の趾骨
くるぶしあたりの骨
お手玉の道具
00:57:29 Hurdanmori「シャガイだ!」
シャガイ“家畜のくるぶしの骨” - モンゴル旅行、モンゴルツアー専門店 たびびとのたまご
01:03:49 スライド31:マレル 2
マレル(天国と地獄):地面に描いたマスに小石を投げ入れてそこにケンケンで進む遊び
日本の「ケンケンパ」と同じ形のものも遊ばれた
ただのケンケンパかと思えば大地(terre)と天上(ciel)が…(植田)
01:04:53 大人の遊び
スライド32:音楽地獄(ボッス)
ヒエロニムス・ボッス「悦楽の園」の一部
楽器が罪人の攻め具になっている
天国では歌声が響いているが、(うるさい)楽器は地獄で鳴っている、という説もある
トランプやサイコロも見られ、遊び人の刑罰でもある
01:06:39 tsk-himajin「ウサギが怖い」
01:07:56 スライド33:サイコロ
アレア(偶然)の遊び
動物はアレアの遊びはしない
もっとも人間的な遊びかもしれない
サイコロは骨、象牙、金属、ロウなどでできたものが見つかっている
身分、年齢を問わず熱狂させた
01:13:08 スライド38:チェス 1
起源はインド→アラブ世界→12C後半までにヨーロッパ中に普及
戦いの時なのに戦いのゲームをしているんですね(植田)
01:15:18 meta_3「ルールの訂正可能性」
チェスは貴族の遊びであるとともに、女性も遊んでいいというコンセンサスができていった
中世末にはトランプが栄えることにより人気が急落
01:16:40 スライド41:リトモマキア 1
文字通り訳すと「数の戦い」
11Cに南ドイツで生まれる 元々は算術、幾何学の補助教材
非常に複雑なルール
18C以降は忘れ去られる
01:18:09 rankeigoo「リトモマキア。スマホゲームで開発されたら遊んでみたい。」
01:19:26 スライド43:トランプ 1
14C末にヨーロッパに登場
15C後半から木版印刷術が発展してきれいなカードができるようになり人気が高まる
当初は単純なルール(数字を当てる、絵札を集める)で賭博がされていた
01:21:49 騎士の娯楽
ヨーロッパの諸身分の中でも最も時間に余裕があったのが騎士階級
騎士は暇なんですか? ずっとトレーニングしてそうなイメージがあります(植田)
それが誤解で、騎士の従軍義務は1年で40日など決まりがあり、それ以外は何をしていてもいい(池上)
三身分論
祈る人(聖職者・修道士)、戦う人(騎士・戦士)、働く人(農民)
農民以外は自由時間があった
中世の戦争には遊びの要素があった
騎士の特権的な遊び:狩り、騎馬槍試合
01:29:02 スライド51:輪競走
騎乗からぶらさげられた輪に槍を通す
1つ目を刺した後2つ目にどうやって行くのかよくわからないが…(池上)
01:29:50 Okakyo「かなり小さいですね…」
01:32:43 庶民の運動遊戯
ボール遊び、九柱戯
「遊びの歴史学」第2部 講義メモ